12月21日にアメリカのIGDAからゲストを迎えて、「日米ゲーム『新』時代」というセミナーを開催します。その背景となった出来事や、ここ最近のインディゲームを巡る動向についてちょっと感じることがあったので、ブログを書いてみます。
さて、この一年を振り返ってみると、今年のゲーム業界はインディゲーム開発者の年でした。3月のBitSummitを皮切りに、東京ゲームショウのインディゲームコーナー、SIG-Indie10、東京ロケテゲームショウ、デジゲー博と、同人&インディゲームのイベントが例年になく盛り上がったように思います。クラウドファウンディングとインディゲームの結び付きも大きなトピックでした。国内では「モンケン」、海外では「Mighty No.9」が資金調達に成功し、新しい可能性を示しました。でもって、インディゲーム開発者であれば、おそらく自分たちが作ったゲームを世界中で配信することを夢見ているのではないかと思います。できるだけ多くの人にゲームを遊んで貰うのはクリエイターの性みたいなものですし、世界中に配信できる中で、あえて国内だけでリクープを狙う必然性が乏しいからです(タイトルによるとは思いますが)。ただ、多くの人が漠然と海外版を出してそれっきり、みたいな感じではないでしょうか。
これは書籍の世界でも同じように感じているのですが、なんとなく「コミュニティベースドパブリッシング」という考え方が、世の中に広まっているような気がします。コミュニティの中で講演をしたり、ブログを書くなどして、高い影響力を持っている人またはグループが書籍を執筆し、それを周りのコミュニティ参加者が口コミで周囲に伝播させていき、売上に貢献するというモデルです。それによって得た利益を執筆者は再びコミュニティに還元し、次のループが始まる・・・。まるで同人誌やミニコミ誌みたいですが、このコミュニティがインターネットやSNSを介して薄く広く拡散している点が、おもしろい点ではないでしょうか。それになにより、今時ふつうの書籍より何倍もの冊数を、同人誌が売り上げていたりしますしね・・・。
閑話休題。たとえば今ならクラウドファウンディングで資金を募って書籍を作成する、なんてこともできそうです。でも実際に資金を調達するには、ある程度のネームバリューがあって、コミュニティを形成していることが重要であることは、なんとなく気がついている人も多いのではないかと思います。そして一方的にコミュニティから簒奪するのではなく、著者もまたコミュニティの構成員の一人として、そこに還元していく姿勢がなければ、コミュニティ自身が枯れてしまうでしょう。
つまり何が言いたいかというと、もしインディゲームを作って世界で配信したいなら、ゲームを作るのとを同じくらい、国際的なユーザーないし開発者コミュニティの育成が重要な時代になっている、ということです。たとえばSteamでグリーンライトを通過するためには、世界中のユーザーの後押しが必要不可欠です。そのためには「ゲームができたから、みんな応援してね」ではなく、日頃から開発者コミュニティの一員として、知人のゲームのグリーンライト通過を応援するなどの姿勢が求められるでしょう。いわば「情けは人の為ならず」というわけです。別に海外でなくても、コミケで委託販売を手伝うとか、国内でも同じですよね。
自分はゲーム開発者ではありませんが、やはりIGDAでいろいろ活動をして、GDCに毎年行っているうちに、だんだんと開発者コミュニティを通した知り合いが増えてきました。IGDAでは毎年GDCに加えて、カジュアルコネクトアメリカにあわせてIGDAサミットというカンファレンスを開催し、知見を共有し合います。ぶっちゃけ、そんなに大きなカンファレンスではなくて、100名くらいのメンバーが集まるくらいなんですが、規模が小さいだけに交流も密接です。自分も今年はじめて参加したのですが、ただ参加するだけではつまらないので、「なぜIGDA日本はゲーム開発者ではなく、ジャーナリストが運営しているのか」と題して、一席ぶってきました。英語での講演でしたが、事前に用意した英文を読み上げるだけでしたし、時間も20分くらいでしたし、なにより聴衆も5-6人でしたので、そんなに大変では亡かったです。
そこでお会いしたのがエド・マグニンさんというベテランゲーム開発者です。アップル2時代からずーっとプログラマとしてゲームを作っている人で、現在は独立されて携帯ゲーム機とスマホに特化したゲーム開発を行っています。IGDAでは財務をあずかるIGDAファンデーションというグループの世話人をされており、知日派で日本に住んだ経験もあるとのことで、日本語を勉強されています。そのマグニンさんがクリスマスにあわせて日本に来日するので、何かIGDA日本で講演したいという依頼があり、今回のセミナーを企画する運びとなりました。
しかもマグニンさん、自分が英語で講演したのに影響を受けたらしく、自分も日本語で講演するといっています。正直言ってどの程度のレベルか、うーんという感じなのですが、このバイタリティと挑戦心がやはりアメリカのインディゲーム開発者だと思うのですね。失敗を恐れず、常に前向きに行動する。その背景にはマグニンさんの、日本のゲーム開発者とネットワークを作りたい、IGDA日本を通して、開発者コミュニティを広げたいという想いがあります。それが回り回って自分の得にもなるのは、言うまでもありません。このあたり、我々も見習いたいところではないかと思います。
GDCやカジュアルコネクトを取材して思うのは、彼らの「前へ、前へ」というバイタリティです。クリスマス直前で、しかも三連休の初日での開催ではありますが、ぜひ一人でも多くの方に参加いただければ有り難いなあと思います。マグニンさんを迎え撃つ日本のメンバーも、2Dファンタジスタの渡辺雅央さんに、SIG-Glocalization世話人でKAKEHASHI GAMESの矢澤竜太さんと、これまたバイタリティあふれる方々ですので、きっと元気を分けてもらえると思います。