2013年12月4日水曜日

インディゲーム開発者とコミュニティ

12月21日にアメリカのIGDAからゲストを迎えて、「日米ゲーム『新』時代」というセミナーを開催します。その背景となった出来事や、ここ最近のインディゲームを巡る動向についてちょっと感じることがあったので、ブログを書いてみます。

さて、この一年を振り返ってみると、今年のゲーム業界はインディゲーム開発者の年でした。3月のBitSummitを皮切りに、東京ゲームショウのインディゲームコーナー、SIG-Indie10、東京ロケテゲームショウ、デジゲー博と、同人&インディゲームのイベントが例年になく盛り上がったように思います。クラウドファウンディングとインディゲームの結び付きも大きなトピックでした。国内では「モンケン」、海外では「Mighty No.9」が資金調達に成功し、新しい可能性を示しました。

でもって、インディゲーム開発者であれば、おそらく自分たちが作ったゲームを世界中で配信することを夢見ているのではないかと思います。できるだけ多くの人にゲームを遊んで貰うのはクリエイターの性みたいなものですし、世界中に配信できる中で、あえて国内だけでリクープを狙う必然性が乏しいからです(タイトルによるとは思いますが)。ただ、多くの人が漠然と海外版を出してそれっきり、みたいな感じではないでしょうか。

これは書籍の世界でも同じように感じているのですが、なんとなく「コミュニティベースドパブリッシング」という考え方が、世の中に広まっているような気がします。コミュニティの中で講演をしたり、ブログを書くなどして、高い影響力を持っている人またはグループが書籍を執筆し、それを周りのコミュニティ参加者が口コミで周囲に伝播させていき、売上に貢献するというモデルです。それによって得た利益を執筆者は再びコミュニティに還元し、次のループが始まる・・・。まるで同人誌やミニコミ誌みたいですが、このコミュニティがインターネットやSNSを介して薄く広く拡散している点が、おもしろい点ではないでしょうか。それになにより、今時ふつうの書籍より何倍もの冊数を、同人誌が売り上げていたりしますしね・・・。

閑話休題。たとえば今ならクラウドファウンディングで資金を募って書籍を作成する、なんてこともできそうです。でも実際に資金を調達するには、ある程度のネームバリューがあって、コミュニティを形成していることが重要であることは、なんとなく気がついている人も多いのではないかと思います。そして一方的にコミュニティから簒奪するのではなく、著者もまたコミュニティの構成員の一人として、そこに還元していく姿勢がなければ、コミュニティ自身が枯れてしまうでしょう。

つまり何が言いたいかというと、もしインディゲームを作って世界で配信したいなら、ゲームを作るのとを同じくらい、国際的なユーザーないし開発者コミュニティの育成が重要な時代になっている、ということです。たとえばSteamでグリーンライトを通過するためには、世界中のユーザーの後押しが必要不可欠です。そのためには「ゲームができたから、みんな応援してね」ではなく、日頃から開発者コミュニティの一員として、知人のゲームのグリーンライト通過を応援するなどの姿勢が求められるでしょう。いわば「情けは人の為ならず」というわけです。別に海外でなくても、コミケで委託販売を手伝うとか、国内でも同じですよね。

自分はゲーム開発者ではありませんが、やはりIGDAでいろいろ活動をして、GDCに毎年行っているうちに、だんだんと開発者コミュニティを通した知り合いが増えてきました。IGDAでは毎年GDCに加えて、カジュアルコネクトアメリカにあわせてIGDAサミットというカンファレンスを開催し、知見を共有し合います。ぶっちゃけ、そんなに大きなカンファレンスではなくて、100名くらいのメンバーが集まるくらいなんですが、規模が小さいだけに交流も密接です。自分も今年はじめて参加したのですが、ただ参加するだけではつまらないので、「なぜIGDA日本はゲーム開発者ではなく、ジャーナリストが運営しているのか」と題して、一席ぶってきました。英語での講演でしたが、事前に用意した英文を読み上げるだけでしたし、時間も20分くらいでしたし、なにより聴衆も5-6人でしたので、そんなに大変では亡かったです。

そこでお会いしたのがエド・マグニンさんというベテランゲーム開発者です。アップル2時代からずーっとプログラマとしてゲームを作っている人で、現在は独立されて携帯ゲーム機とスマホに特化したゲーム開発を行っています。IGDAでは財務をあずかるIGDAファンデーションというグループの世話人をされており、知日派で日本に住んだ経験もあるとのことで、日本語を勉強されています。そのマグニンさんがクリスマスにあわせて日本に来日するので、何かIGDA日本で講演したいという依頼があり、今回のセミナーを企画する運びとなりました。

しかもマグニンさん、自分が英語で講演したのに影響を受けたらしく、自分も日本語で講演するといっています。正直言ってどの程度のレベルか、うーんという感じなのですが、このバイタリティと挑戦心がやはりアメリカのインディゲーム開発者だと思うのですね。失敗を恐れず、常に前向きに行動する。その背景にはマグニンさんの、日本のゲーム開発者とネットワークを作りたい、IGDA日本を通して、開発者コミュニティを広げたいという想いがあります。それが回り回って自分の得にもなるのは、言うまでもありません。このあたり、我々も見習いたいところではないかと思います。

GDCやカジュアルコネクトを取材して思うのは、彼らの「前へ、前へ」というバイタリティです。クリスマス直前で、しかも三連休の初日での開催ではありますが、ぜひ一人でも多くの方に参加いただければ有り難いなあと思います。マグニンさんを迎え撃つ日本のメンバーも、2Dファンタジスタの渡辺雅央さんに、SIG-Glocalization世話人でKAKEHASHI GAMESの矢澤竜太さんと、これまたバイタリティあふれる方々ですので、きっと元気を分けてもらえると思います。

2013年12月3日火曜日

オンラインセミナーについて

IGDA日本では定期的にオンラインのストリーミングセミナーを開催しています。2012年は東京大学の藤本先生と一緒に、不定期にシリアスゲームのカンファレンス参加報告会などを行っていましたが、今年に入って新たに「オンラインセミナー」と題してスケールアップしました。

それに伴い配信方法もUstreamとニコニコ生放送の二本立てとなり、配信機材も自分の「なんちゃって配信」から、クロマキー合成をもちいた本格的な配信にバージョンアップ。配信はIGDA日本理事でグルーブシンクの松井さんに手伝っていただいています。松井さんは業務での配信も受けおわれているため、クオリティが雲泥の差です。

ニコニコ動画で配信されるようになって、単純に視聴者数も増えました。Ustreamだけの時代でも30人から40人くらいの累計視聴者数がありましたが、それに単純にニコニコ動画の配信数が加算された感じです。

2013年9月11日に配信された「IGDA日本オンラインセミナー#03 アメリカ&シンガポール 世界に広がるシリアスゲームの今」では、ニコニコ生放送で累計80人、Ustreamで累計30人と、過去最大の視聴をいただきました。録画をアップしておけば、あとからでもちょこちょこ見て貰えますし、時には「ネットで見たんですが...」と問い合わせをいただくことも。いやー、ありがたいですね。これだけでも配信する価値があるというものです。

IGDA日本ではリアルのセミナーを開催していて、参加者同士の交流やコミュニティ作りにはオフラインが向いているとは思います。ただし地方の方は参加が難しいですし、準備やら当日の運営やらで、結構大変なのも事実。またテーマによらず、どんどんいろんな人に喋りたいことを喋って貰いたいと、ずっと思っていました。そのためオンラインセミナーという形式が、かなり向いているのではないかと思います。あと、やっぱり配信していて楽しいですしね。自分がもともと雑誌の編集をしていたからかもしれませんが、放送とか配信とか、なにかワクワクするものがあります。

というわけで12月9日(月)にはオンラインセミナー#06「今さら聞けないセキュリティ入門」を開催します。講師は東京ロケテゲームショウ・ワーキンググループ世話人で、SIG-Indie副世話人もつとめる、Maniac Houseの大澤範之さん。以前CEDECでも「初心者のためのセキュリティ/プライバシー講座」を講演されました。「セキュリティの話を、できるだけゆるく話す」ことをモットーに講演されるとのことなので、セキュリティに乗り遅れてしまった(僕みたいな)方、ぜひご覧ください(もちろん録画もします)。事前に素朴な質問も受けつけていますので、ぜひハッシュタグ#igdajをつけてTwitterでツイートしてください。講演中のタイムラインでの投稿も歓迎です。ただし、こちらはUstreamのみとなります。

また、年明けにはオンラインセミナー#07も予定していますので、こちらもお楽しみに。こちらは再びUstreamとニコニコ生放送の二本立てとなり、強力な講師が登場する予定です。IGDA日本には、こんなふうにいろんなタレントがそろっていて、どんどん知見を共有していきますので、今後ともご期待ください。

IGDA日本オンラインセミナー配信アドレス
Ustream
ニコニコ生放送





2013年2月10日日曜日

本業優先の法則

会社の社長室などに行くと、よく社是社訓が張ってありますよね。あれは経営者が常々、迷ったときに見て会社の方針を再確認するために必要なんだと聞いたことがあります。

IGDA日本のようなNPOにとって、この社是社訓にあたるのが設立趣意書、すなわち「ミッション」です。詳細はIGDA日本の紹介スライドの5枚目に記されているので、ぜひご覧になってください。

IGDA日本はこのミッションに即して、さまざまな活動を行っているのですが、そこで一つ重要な行動規範がありました。どこにも書かれていないので、改めて紹介します。それが「本業優先の法則」です。

世の中にはさまざまなNPO法人があり、中には常勤雇用者を抱えている団体もあります(IGDA本体も数名の常勤雇用者がいます)。しかしIGDA日本については、今のところ給与などはお支払いしていません。そのため常に「本業優先でお願いします」と説明しています。当たり前ですよね。

でも、時々これが逆転しちゃうことがあるんです。一番まずいのは「IGDA日本の運営に本腰が入り過ぎて、業務に支障が出た/体を壊した」みたいな状況が発生すること。そうなると周囲との摩擦が発生しますし、新しく運営スタッフに手を挙げてくれる人はいなくなりますし、活動が先細りになってしまいます。IGDA日本にとって最大のリスク要因といえるでしょう。

ただ、世の中ってどんどん移り変わっていきます。就職した、昇進した、結婚した、子どもが生まれた、地方転勤になった、転職した・・・。人ひとりをとりまく環境も、どんどん変わっていきます。そのため「昔のようにIGDA日本の活動に力を入れることが、できなくなった」ということが必ず発生します。それが当たり前だと思います。

そこで、そういう人には最大限の謝辞でもって、こころよく活動をお休みいただけるようにしています。役員やSIGの世話人であれば、どんどん交替していただければと思います。だってボランティアなんだから! 自由意志でやっているから、楽しいんであって、義務感でやるのは辛いだけですよね。

ちなみに、適任者がいなければ、その人が担当していた分野は、新しく意欲のある方が手を挙げていただけるまで、休止となります。ずーっと休止が続くと、なくなります。そうやって組織の新陳代謝を計っていく仕組みになっています。これはIGDA日本全体としても同じで、役員の任期は2年となっています。再任回数に限りはありませんが、逆に「辞めたい」という人を引き留めることはできない仕組みです。

逆に新しく何かやりたい、という人に対しては、よく「手と口の両方を動かしてください」とお願いするようにしています。手と口の両方を動かす人は、周りから信頼がどんどん集まります。手と口を共に動かさない人は、だんだんフェードアウトしていきます。そりゃそうですよね。

では片方だけの人はどうか? 手だけ動かす人は、雑務でも粛々とこなしていただけるので、大変ありがたい存在です。逆に口だけ動かす人は・・・次第に信頼を失っていきます。これがボランティア団体のおもしろいところです。同じようなことは、オープンソースコミュニティでも聞かれます。実際にコードを書いた人が偉い、というわけですね。

まとめるとIGDA日本は、どんどん中の人が入れ替わっていくことが前提となっている組織です。そのため、できるだけ日々の活動に際して、ドキュメント化を進めるようにしています。そして誰がどう入れ替わっても、うまく引き継げるようにしたいと思っています。だって「本業優先」ですからね! 

というわけでIGDA日本で何かやってみたい、運営に参加してみたい、手伝ってみたい、講演してみたい、という方がいたら、お気軽にお声がけください。「本業優先」で楽しくやっていきましょう!

2013年1月4日金曜日

法人登記が終わりました

気がついたら前回のエントリから5ヶ月もほったらかしになっていて、駄目なブログの見本になっていました、はい。というわけで既にご案内させていただいた通り、昨年12月にすべての手続きを終えて、ぶじにIGDA日本はNPO法人として再スタートを切ることが出来ました。いやー、疲れた、(待っている間が)長かった。何はともあれ「法人化」が「やるやる詐欺」にならなくて良かったです。

ただ法人というのは、なっただけでは意味がなくて、継続していかなくちゃいけない。でもって法人だからできる事業を、粛々と進めなくちゃいけない。だって法人になることは手段であって、目的ではありませんからね。じゃないと「とりあえず社長になりたいから起業する」みたいな話になっちゃう。それと共に、いろんな内規を決めていかなくちゃいけません。

ま、それはさておき、今回はとりあえず(気が早いですが)NPO法人化を進めていく上で、目に見えて現れるようになった変化や、良かったことについて書いてみます。

まず第一に「社会的信用を得た」ことですね。いろんなNPO法人が異口同音に告げています。具体的にはセミナー会場などを借りやすくなりました。最近ではIT業界を中心にいろんな勉強会が開催されるようになりましたが、それでも「NPO法人(認証中)です」というと、やっぱり信頼度が違うと感じます。特に東京では場所代が大きくて、無料または安価で利用できるセミナー会場の有無が、会の活動においてホントにホントに大きいんですよ。

第二に活動内容のドキュメント化が進んだ。これまではよく言えば瞬発力と集中力がある、悪く言えばやりっぱなしで、知見の集積や再利用がおざなりでした。これがNPO法人化を進めるうえで、お金の流れをきちんと管理する必要が出てきた。そのため予算表などをちゃんと作って、蓄積するようになりました。その結果、過去の事例が参照できるようになって、いわゆるPDCAサイクルが回せるようになってきたんですね。

そして第三に組織化が進んで、いろんな活動を定期的にできるようになった。なんといっても今年は夏に福島GameJam、秋に東京ロケテゲームショウを続けて実施できました。東京ロケテゲームショウなんて、一回やってあんまり大変だったから、みんな燃え尽きちゃって、ずっと放置されていたくらいですからね(あまりに大変そうだったから、僕も積極的にかかわってませんでした)。これがどちらも開催されて、しかもみんな余裕がある! いやー、もうびっくりです。

こんなふうに、物事を決めるためのルールを明確にして、みんなで手分けして実施できるようにした成果が、早くも出ました。

でもって、何か一つ火がつくと、どんどん周りが進んでいって、世の中ががらっと変わってしまう・・・そんなことがあるんだなあと、最近あらためて感じています。その恒例がグローバルゲームジャムです。なんと今年は国内で14会場がエントリーして、米国・ブラジルに次ぐ世界三番目の会場数を誇るまでになりました。グローバルゲームジャムって、わずか数年前は影も形もありませんでしたよね。日本に紹介された当時も、「何それ?」と懐疑的な見方で見られることの方が多かった。こうしたイベントの成長にIGDA日本が少なからず寄与できたことはホントに誇りに感じます。

IGDA日本も法人化を契機に、どんどんいろんな人に加わってもらって、ますます会を発展させていければいいなあと思っています。まずは1月19日に新年会がありますし、その後もSIG-Audioセミナナー、グローバルゲームジャム、SIG-BGワークショップとセミナーやイベントが目白押しですので、ぜひ一度足を運んでみてください。よろしくお願い申し上げます。